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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)4051号 判決 1977年11月29日

原告

布施トシノ

ほか三名

昭和四九年(ワ)四〇五一号事件 被告

鳳自動車株式会社

ほか二名

昭和五〇年(ワ)第二八二二号事件 被告

渋谷初五郎

主文

被告鳳自動車株式会社、被告真壁平八及び被告渋谷美枝子は、各自、原告布施トシノに対し、金六七九万六五円、原告布施俊夫、原告布施文夫及び原告布施洋に対し、各金四三一万八、六五九円及び以上各金員に対する昭和四九年六月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告渋谷初五郎は、原告布施トシノに対し金六七九万六五円、原告布施俊夫、原告布施文夫及び原告布施洋に対し各金四三一万八、六五九円及び右各金員に対する昭和五〇年四月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、これを三分し、その二を被告らの連帯負担とし、その余を原告らの連帯負担とする。この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告ら訴訟代理人は、「(一)被告鳳自動車株式会社(以下「被告会社」という。)、被告真壁平八(以下「被告真壁」という。)及び被告渋谷美枝子(以下「被告美枝子」という。)は、各自、原告布施トシノ(以下「原告トシノ」という。)に対し、金一、〇五二万二、〇〇〇円、原告布施俊夫(以下「原告俊夫」という。)、原告布施文夫(以下「原告文夫」という。)及び原告布施洋(以下「原告洋」という。)に対し、各金六四二万円及び以上各金員に対する昭和四九年六月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(二)被告渋谷初五郎(以下「被告初五郎」という。)は、原告トシノに対し金一、〇五二万二、〇〇〇円、原告俊夫、原告文夫及び原告洋に対し、各金六四二万円及び右各金員に対する昭和五〇年四月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(三)訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告会社及び被告真壁訴訟代理人並びに被告美枝子及び被告初五郎訴訟代理人は、いずれも、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決並びに原告ら勝訴の場合につき担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。

第二  請求の原因等

原告ら訴訟代理人は、本訴請求の原因等として、次のとおり述べた。

一  事故の発生

亡布施★三(以下「★三」という。)は、昭和四八年一〇月一八日午後零時二五分頃、自動二輪車(墨田区ち一三七五号。以下「原告車」という。)を運転し、東京都足立区六ツ木町五八一番先交差点付近路上を桜木橋方面(南方)から八潮市方面(北方)に向けて進行中、折柄、前方の同番先交差点において、右交差点を八潮市方面から桜木橋方面に向けて対向進行してきた被告美枝子の運転する普通貨物自動車(六足立ね九五七五号。軽自動車。以下「甲車」という。)と、交差道路を神明町方面(西方)から右交差点に至り,右交差点を右折しようとした被告真壁の運転する普通乗用自動車(足立五五い三六三七号。以下「乙車」という。)が衝突し(以下、「第一事故」という。)、その衝撃により暴走してきた甲車に衝突され、★三は、頭蓋骨骨折、硬膜外・硬膜下出血、脳挫傷の傷害を受け、同日から同月二九日まで西新井病院で入院治療を受けたが、同月二九日死亡した。

二  責任原因

1  被告会社の責任原因

被告会社は、乙車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、本件事故により★三及び原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

2  被告真壁の責任原因

被告真壁は、乙車を運転して本件交差点にさしかかり、本件交差点で右折しようとするに当たり、交差道路の左右を注視し、安全を確認しながら運転すべき義務があるにかかわらず、これを怠り、左方を注視せず、安全を確認しないまま、漫然と本件交差点に進入し右折進行した過失により第一事故を惹き起こし、その結果、甲車を暴走させて本件事故を惹き起こしたものであるから、同被告は、民法第七〇九条の規定に基づき、本件事故により★三及び原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

3  被告美枝子の責任原因

被告美枝子は、甲車の所有者である被告初五郎から農業経営のため、甲車の使用権限を与えられ、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法第三条の規定に基づき、本件事故により★三及び原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

仮に、被告美枝子に自賠法第三条に基づく責任がないとしても、同被告は、甲車を運転し時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点にさしかかり、本件交差点を直進するに当たり、前方及び交差道路の左右を注視し、できる限り安全な速度と方法で進行すべき義務があるにかかわらず、これを怠り、本件交差点の約三〇メートルないし約四〇メートル手前で乙車が交差道路を神明町方面から本件交差点に向かつて進行してきているのを認めながら、乙車が自車に進路を譲るものと軽信し、その後は乙車の動静を留意せず、安全を確認しないまま、漫然と前記速度で本件交差点に進入直進した過失により第一事故を惹き起こし、その結果、自車を暴走させて本件事故を惹き起こしたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、本件事故により★三及び原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

4  被告初五郎の責任原因

被告初五郎は、甲車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法第三条の規定に基づき、本件事故により★三及び原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

三  損害

原告らは、本件事故により次のとおりの損害を被り、また、本件事故により★三が被つた損害を相続した。

1  ★三の逸失利益

★三は、本件事故当時満五二歳(大正一〇年一月一一日生れ)の健康な男子であり、布施合金鋳造所を経営し、昭和四八年は事故当日までに金三一五万九、三五〇円の所得を得ており、同年一二月末日までの一年間に金三九七万六、三一〇円の所得を得ることができたはずであり、本件事故に遭わなければ少なくとも満六七歳まで一五年間就労し、その間毎年右の所得を得ることができたはずのところ、本件事故による死亡のため右所得を失つたものであり、同人の生活費として収入の三〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除すると、同人の逸失利益の本件事故時の現価は金二、八八九万円(金一、〇〇〇円未満は切捨)となる。

なお、★三は、合金鋳造の技術を有し、自ら風呂の栓壁かけ等の装飾品、墓の線香立を製作し、あるいは下請に外注してこれを販売していたもので、わずかに原告俊夫が学業の傍ら製品の運搬等を手伝つていたにすぎず、また、同人の死亡により原告俊夫が布施合金鋳造所を経営しているが、製作は全く行つておらず完成品の仕入、販売がその営業内容となり、取扱製品の種類も変わり、取引先も★三時代のものは全体の一割程度であるから、布施合金鋳造所の従前の営業は★三の死亡により実質的に廃業のやむなきに至つたものというべきであり、前記所得の全部が★三の個人的寄与に基づき取得されたものである。

2  相続

原告トシノは、★三の妻であり、その余の原告らは同人の子であり、他に★三の相続人はいないから、各法定相続分に従い、原告トシノは金九六三万円(三分の一)、その余の原告らは各金六四二万円(九分の二)あて、右逸失利益の侵害による損害賠償請求権を相続した。

3  治療費

原告トシノは、★三の入院治療費として、金六九万三、二四〇円を支払い、同額の損害を被つた。

4  入院雑費

原告トシノは、★三の前記入院期間(一二日間)において少なくとも一日金五〇〇円あての雑費を要し、その合計額は金六、〇〇〇円である。

5  葬儀費用等

原告トシノは、★三の死亡に伴い葬儀を執り行い、また、仏壇及び墓地を購入し、以上の費用として金五〇万円を下らない金員を支出し、同額の損害を被つた。

6  慰藉料

原告らは、一家の大黒柱であつた★三の死亡により甚大な精神的苦痛を被つたものであり、その慰藉料は、原告トシノにつき金三五〇万円、その余の原告らにつき各金一五〇万円が相当である。

7  損害のてん補

原告らは、自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)の保険金合計金一、〇七四万三、二四〇円を受領し、原告トシノの前記損害に内金四七四万三、二四〇円、その余の原告らの損害に内各金二〇〇万円を充当し、また、原告トシノは、香典等の名目で被告会社から金一〇万二、〇〇〇円、被告真壁から金一万円、被告美枝子から金五万二、〇〇〇円(合計金一六万四、〇〇〇円)を受領し、自己の前記損害に充当した。

8  弁護士費用

原告らは、被告らが本件事故による損害賠償金を任意に支払わないため、右債権の取立のため、本訴の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し、手数料として金七〇万円を支払つたほか、第一審判決言渡時に成功報酬として認容額の一割に当たる金員を支払う旨約したが、その負担額は、原告トシノが金一一〇万円、その余の原告らが各金五〇万円である。

四  よつて、被告ら各自に対し、原告トシノは、前項2ないし6及び8の同原告の損害及び相続額の合計額から前項7の同原告の受領額を控除した金一、〇五二万二、〇〇〇円、その余の原告らは前項2、6及び8の同原告らの損害及び相続額の合計額から前7項の同原告らの受領額を控除した各金六四二万円並びに被告会社、被告真壁及び被告美枝子に対し以上各金員に対する本件(昭和四九年(ワ)第四〇五一号事件)訴状送達の日の翌日である昭和四九年六月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、また、被告初五郎に対し以上各金員に対する本件(昭和五〇年(ワ)第二八二二号事件)訴状送達の日の翌日である昭和五〇年四月一八日から支払済みに至るまで前同様民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  被告会社並びに被告真壁の免責及び過失相殺の主張に対する答弁

1  免責の主張事実は、否認する。

被告真壁には、前記第二項2に述べるような過失があるから、被告会社の免責の主張は理由がない。

2  過失相殺の主張事実は、否認する。

★三は、原告車を運転し、幅約六・六メートルの道路の左側端から約二・八五メートルのところを通行し、道路左側部分を通行すべき義務を遵守していたものであり、★三が駐車中の貨物自動車の手前又はその右側を通行していた地点において甲車を発見したとしても、甲車が暴走して自車に衝突することを予測することはおよそ不可能であるから、急制動の措置を採つただけで他の衝突回避の措置を採つていないからといつて、★三に過失があるものというをえない。また、★三が法律上要求されている乗車用ヘルメツトを着用していなかつた点に何らかの落度があるとしても、★三は甲車に衝突されて約二・四メートル以上にわたつて跳ね飛ばされ、左頭頂部頭部から同側頭部を強打したものであるから、★三がへルメツトを着用していたとしても同人は死亡したものというべく、ヘルメツトを着用していなかつたことと同人の死亡との間には因果関係がなく、少なくとも民法第七二二条第二項の規定の適用により損害額を算定するに当たり斟酌すべき事情には当たらないというべきである。

六  被告美枝子及び被告初五郎(以下「被告渋谷ら」という。)の免責及び過失相殺の主張に対する答弁

1  被告渋谷らの免責の主張事実は、否認する。

甲道路の幅員が乙道路の幅員よりも広いことは、被告渋谷ら主張のとおりであるが、右幅員の差及び両道路の状況等にかんがみれば、甲道路の幅員が乙道路の幅員よりも明らかに広いものとはいえず、また、被告美枝子運転の甲車は直進車であり、かつ、被告真壁の運転する乙車からみて左方車に当たるけれども、なお、被告美枝子には交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない義務があるというべきところ、被告美枝子には前記第二項3に述べるような過失があるから、被告渋谷らの免責の主張は理由がない。

2  過失相殺の主張事実は、否認する。

前記第五項2で述べたとおり、過失相殺の主張は理由がない。

第三  被告会社及び被告真壁の答弁等

被告会社及び被告真壁訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁等として、次のとおり述べた。

一  請求の原因第一項の事実中、原告ら主張の日時及び場所において、被告美枝子運転の甲車と被告真壁運転の乙車が衝突したこと、及び★三が原告ら主張の傷害を受け、その主張の期間西新井病院において入院治療を受け、その主張の日時に死亡したことは認めるが、その余の事実は争う。

二  同第二項1の事実は認めるが、同項2の事実は否認する。

三  同第三項1及び2の事実中、★三の年齢、生年月日は認めるが、その余の事実は争う。原告ら主張の★三の所得については、同人の昭和四七年以前の所得の約三倍となつていることからしても到底信用しえず、また、★三の死亡後も布施合金鋳造所は、同一性をもつて順調な経営が継続され収益をあげているから、★三の死亡による逸失利益の喪失はない。同項3の事実は認めるが、同項4ないし6の事実は争う。

同項7の事実中、原告らがその主張の金員の支払を受けたことは認めるが、充当関係は知らない。

同項8の事実は、争う。原告らは被告会社及び被告真壁に対し合理的な損害額をはるかに超える高額な損害賠償請求をしたため、同被告らがこれに応ぜず本訴提起のやむなきに至つたものであり、右事実は弁護士費用及び慰藉料等の損害額を算定するに当たり批判的に考慮されるべきである。

四  免責及び過失相殺の主張

1  免責の主張

被告会社及び被告真壁には、乙車の運行に関し、第一事故及び本件事故につき何らの過失もなく、乙車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたから、被告会社は自賠法第三条ただし書の規定により、★三及び原告らが本件事故により被つた損害を賠償する責任はない。

2  過失相殺の主張

仮に、被告会社及び被告真壁に損害賠償の責任があるとしても、★三には、甲車が自車に向かつて進行してきていたのであるから、駐車中の貨物自動車の後方で一時停止し甲車の通過をまつて出発進行すべきであつたにかかわらず、漫然進行した過失があり、右過失により、駐車貨物自動車と甲車にはさまれる形で本件事故が発生したのであり、また、乗車用ヘルメツトを着用しないで原告車を運転した過失があり、ヘルメツトを着用していたならば、頭蓋骨骨折等の直接の死因となるような重大な損傷を免れたというべきであるから、以上の★三の過失は★三並びに原告らの損害額を決するに当たり斟酌されるべきである。

第四  被告渋谷らの答弁等

被告渋谷ら訴訟代理人は、本訴請求の原因に対する答弁等として、次のとおり述べた。

一  請求の原因第一項の事実中、甲車が原告車に衝突したこと、及び★三の死亡が本件事故によることは否認し、その余の事実は認める。★三の死因は、頭部強打であり、ヘルメツトを着用していたならば、右死亡の結果を避けえたものと考えられるから、本件事故と★三の死亡との間には因果関係はないというべきであり、仮に因果関係があるとしても少なくとも約三割の因果関係が排除されるべきである。

二  同第二項3の事実は、否認する。後記第四項1で述べるとおり、被告美枝子には本件事故につき何らの過失もない。

同項4の事実中、被告初五郎が甲車を所有し、自己のため運行の用に供していたことは認めるが、その余は否認する。

三  同第三項1の事実は争う。★三の昭和四八年の事故当日までの所得についての原告らの主張額は、同人の過去の税申告の際の所得額の三倍以上であり、真実右の所得があつたとは考えられず、また、★三の右所得には原告ら家族の寄与もあるから、★三の所得を決するに当たり、同人の総収入から少なくとも三割を原告らの寄与分として控除すべきである。

同項2の事実は知らないが、同項3の事実は認める。

同項4ないし6の事実は、争う。本件事故の時期から考えれば、原告らの慰藉料は、合計金六〇〇万円以下が相当である。

同項7は、原告らの受領額は認めるが、充当関係は争う。

同項8の事実は、争う。

四  免責及び過失相殺の主張

1  免責の主張

被告美枝子は、指定制限速度時速四〇キロメートル以内の速度で甲車を運転し、八潮市方面から桜木橋方面に通ずる道路の左側部分を進行していたが、右道路は右側にガードレール、左側に路肩部分のある車道幅員約六・六メートル(路肩部分を含めると幅約七メートルないし七・三メートル)のアスフアルト舗装の道路であり、これと本件交差点で交差する道路は、本件交差点の中川堤方面寄り部分は幅約四・七メートルの未舗装道路で本件事故当時は通行止となつており、本件交差点の神明町方面寄り部分は、本件交差点に隣接して長さ約七メートルの部分は両側に欄干のある橋となり、この部分は幅約四・三六メートルで、橋の神明町寄り部分は両側に商家、垣根のある幅約五・七メートルのアスフアルト舗装された道路であり、甲車の通行道路は右の幅員の差及び右状況等に照らし、交差道路よりも明らかに幅員が広いものというべきであり、また、甲車は直進車であるのに対し被告真壁の運転する乙車は右折車であり、更に、本件交差点は交通整理の行われていない交差点であり、甲車は乙車にとり左方車であるから、いずれの点からも甲車に優先権があるものというべきところ、被告真壁には右の優先内容に違反し、甲車の動静を注視し、その安全を確認することなく、漫然本件交差点に進入右折した過失があり、被告美枝子は、本件交差点手前約三〇メートル付近で右方から進行して来る乙車を認めたが、右の優先関係から乙車が本件交差点で一時停止し自車に進路を譲るものと考え、本件交差点にそのまま進入直進したものであり、同被告が乙車に右の期待をすることは相当というべきであるから、同被告には乙車の動静を注視しなかつたとしても何らの過失もなく、かつ、衝突後の甲車の暴走は第一事故による衝撃により必然的に生じたものであり、この点についても同被告には何らの過失もなく、甲車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたから、被告渋谷らは自賠法第三条ただし書により、本件事故により★三及び原告らが被つた損害につき賠償する責任はない。

2  過失相殺の主張

仮に、被告渋谷らに損害賠償責任があるとしても、★三には、駐車中の貨物自動車を避けて車道中央に出る際、前方を注視し安全を確認してから車道中央に出る義務があり、甲車との衝突を回避すべき適切な措置を採る義務があるにかかわらず、これを怠り、甲車の動静を注視し、安全を確認しないで車道中央に出、第一事故発生後も適切な回避措置を採らないで相当な速度で進行した過失があり、また、★三の死因が頭部強打によるものであるところ、★三は法律上要求される乗車用ヘルメツトを着用しなかつた過失があり、上記過失を併せると、★三及び原告らの損害から合計六割程度の減額がなされるべきである。

第五  証拠関係〔略〕

理由

(事故の発生)

一  原告ら主張の日時及び場所において、被告美枝子運転の甲車と被告真壁運転の乙車が衝突したこと、及び★三が原告ら主張の傷害を受け、事故当日の昭和四八年一〇月一八日から同月二九日まで西新井病院で入院治療を受けたが、同月二九日死亡したことは本件当事者間に争いがないので、本件事故の態様について審究するに、成立に争いのない甲第七号証、乙第一号証の一、三、四、六ないし一二、第二号証の一ないし三、第三号証(乙第一号証の九、一〇、第二号証の三及び第三号証中添付の写真については、被告渋谷ら主張の写真であることに争いがない。)、被告渋谷美枝子本人尋問の結果(乙第一号証の一、三、八及び第三号証の各記載並びに被告渋谷美枝子本人尋問の結果中後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、(一)本件事故現場は、本件交差点から桜木橋方面(南方)に約一三・四メートルの地点であり、本件交差点は、八潮市方面(北方)から桜木橋方面に通ずる歩車道の区別のない幅約六・六メートルのアスフアルト舗装された道路(以下「甲道路」という。)と神明町方面(西方)から中川堤方面(東方)に通ずる歩車道の区別のない道路(以下「乙道路」という。)とが十字に交差する交通整理の行われていない交差点であり、乙道路の本件交差点より中川堤方面寄り部分は、幅約四・七メートルの未舗装道路であり、本件事故当時その本件交差点出口には、黒色と黄色の縞模様の柵が置かれ、車両が通行できない状態となつており、乙道路の本件交差点より神明町方面寄り部分は、本件交差点に隣接して約七メートルの間は甲道路と並行して流れる葛西用水に架けられた橋となり、橋の部分は幅約四・三六メートル、橋から神明町寄り部分は幅約五・七メートルのアスフアルト舗装された道路であり、甲道路、乙道路とも直線で前方の見通しは良く、本件交差点付近の左右の見通しも、本件交差点付近は市街地となつているが、本件交差点の北西角は、神明町方面に約七メートルの間が前記葛西用水となり、その先の神明町方面寄りは金網柵を周囲にめぐらした植木畑となつており、このため甲道路を八潮市方面から本件交差点に向かつて進行した場合、本件交差点の右方の見通しは良好であつて本件交差点の約三七メートル手前において、乙道路を神明町方面から本件交差点に向かつて進行してくる車両を本件交差点手前約三九メートル西方の地点において見通すことができ、本件事故当時は晴天であり、甲道路、乙道路とも車両の通行量は少なく、両道路の指定最高速度は毎時四〇キロメートルであつたこと、(二) 被告美枝子は、甲車を運転し、八潮市方面から本件交差点に向かい、甲道路の左側端から約一・六メートルないし一・七五メートルの付近を時速約四〇キロメートルの速度で進行し、本件交差点の約三〇メートル手前において、乙道路を神明町方面から本件交差点に向かつて進行してきた被告真壁運転の乙車を認めたが、乙道路の本件交差点より中川堤方面部分は前記のように本件交差点出口に柵が設けられ車両が通行できないようになつているため、乙車が本件交差点で左折又は右折するものと考えたものの、自車を先に本件交差点に進入させてくれるものと軽信し、その後は乙車の動静を注視せず、安全を確かめることなく、ほぼ同速度で本件交差点に進入直進しようとしたところ、本件交差点の甲道路の右側端から約三・八五メートルの地点で自車右後部を乙車左前部に衝突させ、右衝突の衝撃で甲車は後部を左方に振つて右斜めに暴走し、第一事故現場から約一三・四メートル進行した地点において自車前部を対向進行してきた★三運転の原告車に衝突させ、その結果★三及び原告車を約四・一メートル跳ね飛ばし、更に約一・二メートル進行して自車前部を折柄同所に駐車中の普通貨物自動車右前部に衝突させて停止したが、右の間自動車右前輪で約七・五メートル、右後輪で約五・八メートルのスリツプ痕を路上に付着させたこと、(三) 被告真壁は、乙車を運転し、神明町方面から本件交差点に向かい、乙道路を時速約三〇キロメートルの速度で進行し、本件交差点で右折するため、右方及び前方の安全を確認したが、左方から進行してくる車両はないものと軽信し、左方の安全を確認しないまま、本件交差点の約一〇メートル手前で減速し、時速約五キロメートルの速度で本件交差点に進入し右折進行したため、甲道路を八潮方市方面から本件交差点に向かい進行してきた被告美枝子運転の甲車を約二・八メートルに接近してはじめて発見し、衝突の危険を感じたが、回避措置を採るいとまもなく、自車左前部を甲車右後部に衝突させ、その衝撃により甲車を前記のとおり暴走させて原告車に衝突させ、自車は第一事故現場に停止したこと、(四) ★三は、乗車用ヘルメツトを着用せずに、原告車を運転し、桜木橋方面から本件交差点に向かい、甲道路を左側端から約二・八五メートルの付近を進行し、自車右前方から甲車が暴走してくるのを発見し、急制動の措置を採つたが(本件事故現場には原告車のスリツプ痕が約二・四メートルにわたつて残されている。)回避することができず、自車前部を甲車前部に衝突させ前記のとおり約四・一メートル跳ばされて路上に転倒し、左頭頂側頭部から左頭頂後頭部を強打し前記の傷害を受けたこと(なお、被告美枝子が甲車を運転して本件交差点を八潮市方面から桜木橋方面に直進進行中、折柄、神明町方面から本件交差点に至り、本件交差点で右折しようとした被告真壁運転の乙車と衝突したことは、原告らと被告渋谷らとの間において争いがない。)、以上の事実を認めることができ、前掲乙第一号証の一、三、八及び第三号証の各記載及び被告渋谷美枝子本人尋問の結果中、叙上認定と異なる部分は前段認定に供した各証拠に照らし、直ちに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(責任関係)

二 次に、被告らの本件事故についての責任の有無につき判断することとする。

1  被告真壁の責任

前項認定の事実に徴すると、被告真壁には、本件交差点に進入右折するに当たり、前方左右を注視し、左右道路の車両の有無及び動静に留意し、本件交差点を直進しようとする車両等のあるときは、当該車両の進行を妨害してはならず、また、左方車の進行を妨害してはならない義務があるにかかわらず、これを怠り、左方道路の注視を欠き、その安全を確認しないで、左方から既に本件交差点間近に進行してきた被告美枝子の運転する甲車を見逃して右折進行した過失があり、右過失により甲車との衝突(第一事故)を惹き起こし、その結果、甲車を右斜め前方に暴走させ本件事故を惹き起こしたものと認めるべきであるから、同被告は、民法第七〇九条の規定に基づき、本件事故により★三及び原告らの被つた損害を賠償する責任があるものというべきである。

2  被告会社の責任

被告会社が乙車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であることは、原告らと被告会社との間に争いがなく、本件事故は前記のように被告真壁の過失により惹き起こされたものであるから,被告会社の免責の主張は理由がなく、被告会社は自賠法第三条の規定に基づき、本件事故により★三及び原告らが被つた損害を賠償する責任があるものというべきである。

3  被告美枝子の責任

前掲乙第一号証の四及び被告渋谷美枝子本人の尋問の結果によれば、被告美枝子は、その夫と農業経営に従事し、被告初五郎所有の甲車を同被告より借り受け、右農業経営及び家事に供し、もつて、甲車の運行を支配し、かつ、その運行の利益を享受し、甲車を自己のため運行の用に供していた者であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

よつて、同被告の免責の抗弁につき以下審究するに、前項認定の事実に徴すると、被告美枝子は、甲車を運転し甲道路を進行中、本件交差点の八潮市寄り約三〇メートル手前において、乙道路を神明町方面(右方)から進行してくる被告真壁運転の乙車を認めたのであるから、本件交差点の進入に当たつては、乙車の動静を注視し、その安全を確認して進行すべき義務があるにかかわらず、これを怠り、乙車が自車に進路を譲るものと軽信し、その後は乙車の動静を注視せず、その安全を確認しないまま進行した過失により、乙車に自車を衝突させ、その結果、右衝突の衝撃により自車を右斜め前方に暴走させ、折柄、対向進行してきた★三運転の原告車に衝突させたものと認めるを相当とするから、同被告の免責の抗弁は理由がなく、同被告は自賠法第三条の規定に基づき本件事故により★三及び原告らの被つた損害を賠償する責任があるものというべきである。

もつとも、前記認定のとおり、乙車にとつて甲車は左方から進行してくる車両であり、かつ、直進車であるから、乙車には甲車の進行を妨げてはならない義務があり、また、被告渋谷ら主張のように甲道路の幅員が乙道路の幅員よりも明らかに広いものであるとしても、被告美枝子は、交差点に入ろうとするにあたり、また、交差点内を通行するに当たつては、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行すべき義務までも免れるべきものではないというべきところ、本件交差点の甲道路及び乙道路の幅員及び道路状況は前項認定のとおりであつて、その北西角の見通しは良好で、被告美枝子は、すでに本件交差点の約三〇メートル手前において神明町方面から本件交差点に向かい進行中の乙車を認めており、本件における乙車の動静は被告美枝子において予測しえないほど異常なものとは認めることができず、かような状況のもとにおいては、甲車がいわゆる優先通行権を有していたというものの、安易に劣位通行車たる乙車の一時停止のみを信頼することは許されないものというべく、したがつて、被告美枝子には前記過失があるものといわざるをえない。

4  被告初五郎の責任

被告初五郎が甲車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であり、被告美枝子には前記のとおりの過失が認められるから、被告初五郎の免責の抗弁は理由がなく、同被告は自賠法第三条の規定に基づき本件事故により★三及び原告らが被つた損害を賠償する責任があるものというべきである。

(過失相殺)

三 被告らは、★三には、駐車中の普通貨物自動車を避けて車道中央に出るに当たり、前方を注視し安全を確認してから車道に出、甲車との衝突を回避すべき義務があるにかかわらず、これを怠り、甲車の動静を注意せず安全を確認しないで車道中央に出、甲車を発見後適切な回避措置を採らないで相当な速度で進行した過失があり、また、★三は乗車用ヘルメツトを着用しないで原告車を運転し、このため頭部骨折の傷害を受けたもので、この点にも過失があつた旨主張するので、判断するに、本件事故の態様についての前記認定の事実に徴すると、★三は道路交通法上要求されている乗車用ヘルメツトを着用しないで原告車を運転していたものであり、死因となつた前記傷害が路上に転倒する際左頭頂側頭部から左頭頂後部を強打したことにより生じたものであることからみて、ヘルメツトの未着用が傷害の結果を重からしめたものと推認するを相当とし、この点★三にも本件事故につき落度があつたことは否定し難いものというべきであるが、★三の運転上の過失については、同人は甲車との衝突の直前急制動の措置を採つており、甲車は乙車との衝突前時速約四〇キロメートルの速度で進行中右衝突により右斜め前方に暴走したもので、本件事故現場は第一事故現場からわずか約一三・四メートルの距離にあることにかんがみると、第一事故の発生から本件事故発生までの間は瞬間的であり、この間に★三が前記以外の衝突回避の措置を採つていないからといつて、この点に★三に過失があつたものと認めることはできない。しかして、叙上★三のヘルメツトを着用しなかつた点の落度は、★三及び原告らの損害賠償額を決するにつき斟酌すべきものとし、前記認定の本件事故の態様及び弁論の全趣旨に徴すると、★三及び原告らの各損害額からその一割を減額するのが相当である。

(損害)

四 原告らは、本件事故により次の損害を被り、また、★三が本件事故により被つた損害を相続したものということができる。   1 逸失利益

成立に争いのない甲第二号証の一、二、証人内川清雄の証言によりその成立を認むべき甲第四号証、原告布施俊夫本人尋問の結果によりその成立を認むべき甲第五号証及び第一一号証の一、二並びに証人内川清雄の証言及び原告布施俊夫本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、★三は、大正一〇年一月一一日生まれで、本件事故当時満五二歳(この事実は原告らと被告会社並びに被告真壁の間において争いがない。)の健康な男子であり、合金鋳造の技術を有し、昭和三〇年頃から布施合金鋳造所の名称で装飾品、風呂の水栓等の鋳造販売を営んでいたが、鋳造については主に下請業者に発注し、納入された半完成品に前記技術を生かし加工して完成品としており、右営業に当たつては当時大学生であつた息子の原告俊夫に時折運搬を手伝わせる程度で、他は殆んど自己一名で行つており、昭和四八年一月から事故当日の同年一〇月一八日までの間金三一五万九、三五〇円(一日当り金一万八五六円)の所得を得(いわゆる白色申告にいう専従者控除額金三八万五、〇〇〇円を控除した後の所得である。)、原告ら家族を扶養していたこと、★三の死亡後は、原告俊夫及び原告文夫が布施合金鋳造所を経営しているが、原告俊夫らは鋳造技術を有しないため、完成品の金物類の仕入販売を行つており、従前の営業形態は全面的に変更され、その顧客も★三の代のものは一割程度にすぎず、他は原告俊夫らが開拓した顧客であることが認められる。右認定の事実によれば、★三は前記営業を営むに当たり、時折原告俊夫を運搬の手伝として使う程度で他は殆んど★三自らが自己の技術を生かして鋳造販売を行つていたものであるから、原告俊夫らの★三の営業に対する寄与の程度は前記専従者控除の分を超えるものではなく(★三の所得額及び専従者控除額の合計額に対する専従者控除の割合は一割強である。)、布施合金鋳造所の営業形態は★三の死亡によりほぼ完全に変様したものと認められるから、★三の前記所得はすべて同人の寄与によりあげられた収益と推認しえ、★三は本件事故に遭わなければ昭和四八年一二月末日までの一年間に前記割合による金三九六万二、四四〇円の収益をあげえたものとみるべきところ、右認定に係る同人の営業内容及び営業形態に徴すれば、同人は昭和六二年一〇月二九日(六六歳九か月)に至るまで就業し、うち昭和五五年一〇月二九日(五九歳九か月)に至るまでの間毎年右の額を下らない収益をあげ、その後については、年額金二三七万七、四六四円(当裁判所に顕著な労働大臣官房統計情報部編の昭和五〇年の賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計六〇歳以上の男子労働者平均賃金年額は五〇歳以上五四歳までの男子労働者平均賃金年額の六二%に当たり老齢化による稼得能力の減少を示しており、★三についても上記営業形態等をみると、老齢化による収益減は免れえないものと推認されるところ、その収益減は、右男子労働者の平均賃金の場合を参酌し、上記昭和四八年年収額の四割減を相当として算出)を下らない収益をあげえ、全期間について生活費として収入の三割を必要とするものとみるのが相当であり、以上を基礎とし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、★三死亡の日の逸失利益の現価を算出すると、金二、二八九万三、二九七円となるところ、前示過失相殺による一割の減額をすると金二、〇六〇万三、九六七円となる。

もつとも、成立に争いのない甲第二号証の三によれば、★三は昭和四七年度の所得税申告の際所得額を金一一〇万円と申告していることが認められ、右の所得額と前記昭和四八年の所得額との間には大幅な隔りがあるけれども、前掲甲第二号証の一、第四号証、原告布施俊夫本人尋問の結果によりその成立を認むべき甲第八号証の一ないし四、第九、第一〇号証の各一ないし五並びに証人内川清雄の証言及び原告布施俊夫本人尋問の結果を総合すれば、昭和四八年の所得税の準確定申告は公認会計士、税理士である内川清雄の調査に基づいてなされたものであつて、同人は右調査に当たり納品書、外注に関する請求書、領収書及び★三作成のメモに基づいて売上高、売上原価、経費等を算出し、所得額を算定したものであり、また、★三は中央信用金庫向島支店に自己及び原告ら名義で預金を有しており、右預金高は昭和四六年一〇月二七日現在で合計金一二五万三、六八二円、昭和四七年一〇月二七日現在で合計金三二四万六、七一七円、昭和四八年一〇月二七日現在で合計金五三五万二一五円であり、昭和四七年及び昭和四八年における前年からの増加金額はそれぞれ金一九九万三、〇三五円、金二一〇万三、四九八円であることが認められ(右認定を左右するに足る証拠はない。)、叙上認定の事実に徴すると、★三の昭和四八年の所得額は前記認定のとおりと認めるのが相当である。更に、証人大島正弘の証言によりその成立を認むべき乙第四号証によると、布施合金鋳造所は、★三と長男原告俊夫及び二男原告文夫の三名の共同就労によりその営業がされていたものであり、右原告二名の給与相当額を★三の所得額より控除すべきであり、また、昭和四八年は右業種の好況時で、翌昭和四九年には二五パーセントの収入減になつている旨の記載があり、証人大島正弘も同旨の証言をしているけれども、布施合金鋳造所の営業は殆んど★三一人で行い、原告俊夫が時折品物の運搬等を手伝う程度にすぎなかつたことは前記認定のとおりであるから、★三の前記所得額から更に原告俊夫及び原告文夫の寄与分を控除することは相当ではなく、また、昭和四九年の所得額が二五パーセント減少している点についても、確実な資料に基づいて判断されたものとは認め難く、他に収入の増減について確実な資料の認められない本件においては、★三は昭和四九年以降も前示のとおり前記所得と同程度の収入を得ることができたものと認めるべきである。

2  相続

成立に争いのない乙第一号証の一七、原告布施俊夫本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告トシノは★三の妻であり、その余の原告らはその子であり、他に相続人はいないことが認められるから、原告トシノは法定相続分に従い前記過失相殺後の損害額金二、〇六〇万三、九六七円の三分の一に当たる金六八六万七、九八九円、その余の原告らは法定相続分に従い右損害額の九分の二に当たる金四五七万八、六五九円あてそれぞれ相続したものというべきである。

3  治療費

★三が原告ら主張の期間西新井病院において入院治療を受け、原告トシノがその間の治療費として金六九万三、二四〇円を支出したことは本件当事者間に争いがないから、原告トシノは同額の損害を被つたものであるところ、前示過失相殺による一割の減額をすると、金六二万三、九一六円となる。

4  入院雑費

原告布施俊夫本人尋問の結果によると、原告トシノは★三の入院に当たり、寝巻及び着がえ等を購入し、その他の雑費を要したことが認められ、前記傷害の部位、程度及び入院期間に照らすと、雑費に対する支出は前記入院期間(一二日間)一日につき金五〇〇円を下らないものと認められるから、原告トシノは合計金六、〇〇〇円の損害を被つたものであるところ、前示過失相殺による一割の減額をすると、金五、四〇〇円となる。

5  葬儀費用等

成立に争いのない甲第三号証の一ないし五及び原告布施俊夫本人尋問の結果によると、原告トシノは、★三の死亡に伴つて葬儀を執り行い、葬儀費用として合計金四四万九、三〇〇円(香典返しに要した費用を除く。)の支出を余儀なくされ、また、墓地購入費として金三〇万円、仏壇購入費として金八万二、五〇〇円を支出したことが認められるところ、本件に顕われた★三の年齢、職業等の事情に徴すると、葬儀費用としては金四〇万円をもつて本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当であり、また、前記墓地及び仏壇が★三本人のためにのみ設置、使用されるとの特段の事情の認められない本件においては、右購入費用のうち金一〇万円の限度において、本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当であるところ、前示過失相殺による一割の減額をすると、葬儀費用は金三六万円、墓地及び仏壇購入費は金九万円となる。

6  慰藉料

前掲乙第一号証の一七及び原告布施俊夫本人尋問の結果によれば、★三には妻原告トシノ、子原告俊夫、原告文夫及び原告洋がおり、原告俊夫、原告文夫及び原告洋は本件事故当時いずれも大学在学中で学業中途であり、原告らは本件事故により一家の支柱であつた★三を失い甚大な精神的苦痛を被つたことが認められ、本件事故の態様、★三の年齢、家族構成等本件に現われた一切の事情(前示過失相殺の事情を除く。)を斟酌すると、右精神的苦痛に対する慰藉料は原告トシノにつき金三五〇万円、その余の原告らにつき各金一五〇万円とするのが相当であるところ、前示過失相殺による一割の減額をすると、原告トシノにつき金三一五万円、その余の原告らにつき各金一三五万円となる。

7  損害のてん補

以上によると、被告ら各自に対し、原告トシノは金一、一〇九万七、三〇五円、その余の原告らは各金五九二万八、六五九円の支払を求めうべきところ、原告らが責任保険から合計金一、〇七四万三、二四〇円の支払を、原告トシノが被告会社から金一〇万二、〇〇〇円、被告眞壁から金一万円、被告美枝子から金五万二、〇〇〇円、合計金一六万四、〇〇〇円の支払を受けたことは本件当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告らが責任保険から受領した保険金を、原告トシノの損害に金四七四万三、二四〇円、その余の原告らの損害に各金二〇〇万円あて充当したことが認められるから、以上を右各金員から控除すると、被告ら各自に対し、原告トシノの請求しうる金員は金六一九万六五円、その余の原告らの請求しうる金員は金三九二万八、六五九円となる。

8  弁護士費用

原告らは、被告ら各自に対し、以上のとおり本件事故の損害賠償金の支払を求めうるところ、原告布施俊夫本人尋問の結果によると、被告らが任意に右金員を支払わないため、その取立のためやむなく、本訴の提起追行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任したことが認められるところ、本件訴訟の難易、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件事故による損害として被告ら各自に支払を求めうる弁護士費用は、原告トシノにつき金六〇万円、その余の原告らにつき各三九万円あてが相当である。

(むすび)

五 以上の次第であるから、被告らは、各自、原告トシノに対し金六七九万六五円、その余の原告らに対し各金四三一万八、六五九円及び右各金員に対し被告会社、被告眞壁及び被告美枝子は本件事故発生の後で、本件(昭和四九年(ワ)第四〇五一号)訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年六月一日から、被告初五郎は本件事故発生の後で、本件(昭和五〇年(ワ)第二八二二号)訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年四月一八日からそれぞれ支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきであるが、原告らのその余の請求は理由がないものというほかない。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度で認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条及び第九三条第一項の規定を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の規定を適用し、被告らの仮執行免脱の宣言の申立は相当ではないから却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 武居二郎 島内乗統 丸山昌一)

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